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病気や障害を抱えるこどもや家族への関心を高めるWEBメディア

クリニクラウンジャーナル

自分も相手も、心が動いた瞬間を見逃さずに働きかける。 29歳、最年少クリニクラウン・ゆうゆが目指す”色のついた世界”

みなさんは何のために、誰のために働いていますか?
「働くとは『端(はた)を楽(らく)にする』こと」。つまり、周りを楽にすることが働くことの本質だという考え方があります。私は、大学生の時にこの言葉に出会い、業種や肩書きが付く以前のもっとシンプルな「誰かに対しての働きかけ」について考えを巡らせるようになりました。

“ゆうゆ”こと林優里さんは、クリニクラウンの活動を通じて「安心したり、ホッとしたりした時に出る笑顔をつくりたい」と話します。

クリニクランの活動で大事にしているものは?
クリニクラウンを通して誰にどんな働きかけをしているの?

インタビューでは、29歳の林さんが等身大で感じている「クリニクラウン」の今とこれからについて話していただきました。

白黒の世界から色のついた世界へ

2016年に日本クリニクラン協会に仲間入りした林さんは、月に3〜4回のペースで全国の病院を訪問するほか、事務局スタッフとしてもクリニクラウンを支える仕事をしています。
現在、最年少クリニクラウンとして精力的に活動する林さんが、クリニクランの活動を初めて知ったのは大学生の頃。けれど、その原点は中学や高校時代の経験にあったと言います。

「中学生の頃は、自分を抑えこんで人との関係をうまく作れなくて。自分に対して『笑ってはいけない』という思い込みがあり、人づきあいにしんどさを感じていました」。

その状況が一変したのは高校生になった時。友だちから「笑った顔が素敵やん」と言ってもらえことがきっかけで、自分の世界感が一気に変わりました。
新しい環境で一から人との関係を作る中で、自分の気持ちに蓋をしていると相手も蓋をすること、反対に、自分が笑顔になると相手も笑顔になること、人と人は鏡の関係で、笑顔は伝染することを知ったと言います。

「『白黒のこの世界に色がついた』みたいに思ったんですね。自分の中で。それぐらい衝撃的なできごとでした。自分を出せるってすごいことなんやなって。そこで、人を笑わせることとか、自分を出せることで生き生きするってことを実感したので。そういう環境を作れる人になりたいなあ、と」。

その時の気持ちを一つひとつ噛みしめるように話す林さん。クリニクランで目指したい世界観がそこにあるように感じました。

しかし、当時はそれをどこでどのように形にできるのか、はっきりとわかりませんでした。学校の先生には「人を笑わすのはお笑い芸人じゃないの?」と言われましたが、それには違和感を覚えたと言います。

「笑いにも種類があると思っていて。英語で言う『ファニー』ではなく、自分は『スマイル』をつくりたい。安心したり、ホッとしたりした時に出る笑顔が見たいなという思いがありました。だから、『先生、お笑い芸人は違うわ』って(笑)」。

林さんは、「自分が関わりたいと思える世界は何か」「そのために必要な『笑顔』とはどんなものなのか」を探しはじめました。

自分の中のピースをつなげて辿り着いた場所

大学生の時、「自分の好きなテーマ」を調べていた林さんは、心に浮かんだキーワード「こども 遊び 笑顔」をインターネットで検索してみました。すると、最初に出てきたのがクリニクラウンのホームページ。「入院環境にいる子どもたちの笑顔をつくる」活動を初めて知った瞬間でした。

何より、こどもたちを笑顔にするだけでなく、お母さんや病院のスタッフなど、周りを含めた環境を変えていくことで、子どもたちの安心感や笑顔を引き出すという活動に衝撃を受けます。

「そうだよね。自分も確かに周りの環境があったから笑顔になれたり自分を出せたりした。それは大事なことだというのがそこでつながって。『やりたい、これはやりたい』って思ったんです」。

大学在学中にクリニクラウンになるためのオーディションを受けて合格。しかし、「絶対戻ってくるんで待っててください」と伝えて、障がい者支援施設に就職しました。

「そこでもすごく学びがあった」と話す林さん。ほとんど喋ることができなかったり、感情が上手くコントロールできなかったりする利用者に対して、どのようにコミュニケーションを取る必要があるのかを学んだそうです。

「たとえば、『あれを取って』という時に、手をバンって払いのけるような仕草をする人がいたんですよ。でも本人としては「あれを取ってほしい」と言っていて。最初は全然分からなかったけど、それはその人が出すコミュニケーションのサインなんです。それをこちらが感じ取ることさえできたら、関係を作ることができるんだと思いました」。
そのコミュニケーションに対する考え方は、クリニクラウンになった今でも通じるものがあると言います。

「最近の訪問でも、5歳ぐらいの女の子がベッドに座って人形をずっといじっていて。『やぁ、来たよー』と言っても全然目を合わせてくれない。その時に距離感やその子の様子を判断して、今、クリニクラウンには関心はないけど、この人形に関心はあるんだと分かって。それって子どものサインかなと思って。じゃあクリニクラウンは、その子の持っている人形を介して一緒に遊べたらいいなと思いました」。

ゆうゆは人形を持ちながら『こんにちは』とか『どうも〜名前なんていうの?』と、その子の人形に向かって話しかけたのだそう。すると、その子は人形の顔をこっちに見せてくれたそうです。

「その子は関わりたいという思いを直接出せないけど、人形を介すると出せることが分かって。その微々たるサインですよね。何か一つ子どもが出しているサインをつかんだら関わるきっかけになる。障がい者施設で働いていた時の経験とつながっているなって思います」。

生き方としてのクリニクラウン

自分の原体験をきっかけに、つくりたい笑顔や環境とは何かを追い求めてきた学生時代。障がい者施設という新たな世界に飛び込み、人と人のコミュニケーションやその環境づくりに、クリニクラウンとの共通点を見出した20代前半。その都度その都度、自分の心が動いた瞬間を見逃さず、正直に、まっすぐに歩んできた林さんだからこそ、クリニクラウンの役割の大きさとこれからの可能性を実感しているのかもしれません。

「10年続けてきた今があるから、後の10年に向けて私たちがこれから担っていけるものがあるかなと思っています」と爽やかに話す林さん。「まだまだ修行が足りないけど」という言葉さえも、ワクワクした表情で話す様子を見て、クリニクラウンは職業という枠に収まらず、生き方そのもののように感じました。

将来の夢について林さんは「クリニクラウンの活動を全国に広げていく開拓者になりたい」と語ります。それは、高校生の頃に自身が体験した「白黒の世界から色のついた世界」へと、もっと多くのこどもたちへと働きかけて、一緒に歩いていきたいと言っているように私には聞こえました。「一緒に行こうよ、一緒に遊ぼうよ」。赤鼻を付けたクリニクラウンならきっと、歌いながら遊びながら、こどもたちそれぞれが本来持っている鮮やかな世界へと、軽やかに連れ出してくれそうです。

クリニクラウンは、病棟のこどもたちとの会話のきっかけをつくるときに「手伝って!」と声をかけるそうです。「手伝ってもらっていい?」と問いかけるのではなく、「手伝って!」と巻き込んでしまう。すると「しょうがないなって動けると思うんです」と林さんは言います。

「『しょうがないな、動いたろ』という気持ちも、相手を思って何とかしてあげようと湧き上がった大切な感情だから。人が生きていくうえで、『自分がこれをしたいからする』っていうのは、その人にとっての力になります。そのやりたいことを見つけるお手伝いをするのがクリニクランの役目だと思っています」

もし、自分も周りも、心が動く瞬間を見逃さず、大事にできる環境をつくりたいと思う方がいたら、クリニクランという扉を叩いてみるのも一つかもしれません。その先にはきっと、「手伝って!」と丸ごとを包み込むような優しい声が聞こえてくると思うから。

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林 優里
1989年生まれ。大阪府出身。
高校生の頃から、人間の発達や生き方に興味を持ち、立命館大学産業社会学部で、こどもの発達に関わる人間関係や環境について学ぶ。福祉施設に就職し、障害を持つ方々と関わり、コミュニケーションの多様さや共感力の大切さを実感する。 2016年3月にクリニクラウンの認定を受け、入院中のこどもたちのコミュニケーションの可能性を広げたいと、全国の小児病棟へ訪問。2018年4月より協会事務局スタッフを兼務。全国の訪問病院と連携をとりながらクリニクラウンの病院派遣事業を担当している。
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<ライタープロフィール>
西尾 泉
1985年生まれ。大阪府出身。
美術大学卒業後に、田舎での仕事づくりや暮らし方に興味を持ち、地方を転々とする。自立しながら生き生きと暮らす人々との出会いを通し、活動の実践者とまだ活動を初めていない人との橋渡しがしたいと、兵庫県のNPOに入職。さまざまな地域活動に関わる中で、その魅力が伝わりきっていないことにもどかしさを感じる。また、ローカルニュースを伝えるメディアの記者を担当したことで、発信者の重要性を痛感し、これからの地域の情報発信を考える機会として、クリニクラウンライターボランティアに応募する。